※本記事は2026年6月16日開催の『freee 統合ワールド 2026』にて実施された対談セッション「超解剖 社長の仕事 ──サイバーエージェントを承継した山内隆裕 × freee創業CEO佐々木大輔と一緒に考える、社長とは。経営とは。」より一部を抜粋・編集して作成しております
「今も常に不安がある」freee×サイバーエージェント代表対談から探る、変革を導くリーダーの葛藤と覚悟【山内隆裕・佐々木 大輔】
NEW! スキル
生成AIの台頭以降、開発現場にはかつてないスピードが求められている。しかし現実は、セキュリティーの懸念、法務の制約、既存ガバナンスとの衝突など、「変革を阻む壁」がエンジニアの前に立ちはだかる。
激変するAI時代、組織を真にドライブするリーダーに求められる要件とは何なのか。
サイバーエージェントの代表を継承した山内隆裕さんと、freeeの創業者である佐々木 大輔さん。背景の異なる2人のトップランナーの対話をもとに、これからの時代を生き抜くリーダーシップの本質を探ろう。
フリー株式会社
代表取締役CEO
佐々木 大輔さん(@DiceSasaki)
博報堂、投資ファンドのCLSAキャピタルパートナーズで投資アナリストとして勤務。ALBERTにてCFOと新規レコメンドエンジンの開発を兼任した後、Googleにて日本およびアジア・パシフィック地域の中小企業向けマーケティングチームを統括。2012年7月フリー設立
株式会社サイバーエージェント
代表執行役員社長
山内隆裕さん(@brother0820)
2006年、サイバーエージェントに新卒入社。09年、CyberZ代表取締役に就任(現任)。フィーチャーフォン向け広告を中心に事業展開をした後、スマートフォン向け広告へと事業を転換。12年にサイバーエージェント取締役、23年にAbemaTV取締役COO(現任)を経て、25年12月より現職
各社異なるAI推進へのアプローチ
2026年現在も、ビジネス界を揺るがし続ける生成AIの進歩。この激流を前に、業界をけん引する企業はどう動いているのか。
サイバーエージェントを率いる山内さんは、同社が脈々と培ってきた「攻めの遺伝子」を武器に、次なるパラダイムシフトへ挑もうとしている。
「サイバーエージェントは、組織としても個人としても変化対応能力を大切にしてきた企業です。広告事業から始まり、スマートフォンの台頭に合わせてゲーム事業に注力し、テレビのネットシフトを見据えて『ABEMA』を立ち上げる。常に時代の変化を敏感に察知し、いち早く“半歩先”へ踏み出すことで成長を遂げてきました。
そうした歴史を持つ私たちにとって、現在のAIシフトは近年稀に見る大チャンスに他なりません」(山内さん)
この巨大な転換期において、サイバーエージェントは1万人組織の変革を圧倒的な推進力で実現している。
「現在、グループ全体で約1万人の社員がいますが、全てをゼロベースで見直し、AI領域で圧倒的なアドバンテージを握るための変革を進めています。すでに全社で200を超えるAIプロジェクトが自発的に走っていますが、組織をさらに加速させるための取り組みとして『AI番付』という制度を始めました。
これは、約半年をかけて各事業部のAI浸透度や活用実績を査定し、スコア化して明示するものです。『横綱』として称賛される事業部がある一方で、『幕下』に甘んじる事業部が可視化されるため、責任者としては相応の緊張感があります。
ですが、この仕掛けによって社内全体に『AIを使いこなすのは自分たちにとってチャンスなんだ』というポジティブな力学が生まれ、新たなビジネスの創出や、社員の多様な可能性を大きく引き出す原動力になっています」(山内さん)
仕組みによる全社的な力学でAIシフトを加速させるサイバーエージェント。一方、freeeはAI推進を阻む要因を徹底的に排除していく方針を示した。
「AIを使って組織を変革しようとするとき、それを止める理由を探せば100個くらい簡単に出てきます。
会議で『このAIプロジェクトを推進しよう』と決断したとしても、翌日になると『法務部門に確認したらNGでした』『セキュリティーの観点から時期尚早です』といった具合に、次々と“できない理由”が降ってくる。でも、そこで諦めるわけにはいきません。
それぞれの部門の言い分を聞いた上で、『じゃあ、どうすればクリアできるか』を一緒に考え、みんなの目線を変えていくプロセスが必要になります」(佐々木さん)
freeeのプロダクトにとって、セキュリティーやガバナンスは無視できない要素に違いない。しかし、佐々木さんはそのリスクから逃げるのではなく、あえて明確な期限を設定することで組織をブレイクスルーさせた。
「もちろん、『変えられない』と考える側にも相応の言い分があり、リスクも実在します。『そのリスクは背負えるか』『背負えないなら代替案はあるか』を常に問い続けなければなりません。
これを解決するのに3カ月かけていいのであれば、自然とうまくいくかもしれません。しかしこの1年間、私たちは『この問題を1週間で解決する』という圧倒的なスピード感で動いてきた。私自身、自らAIを使ってトライアルを重ね、『来週までにどこまでできるか』と極限まで時間を区切って取り組んできました。創業からの14年間、ここまで急激に会社を変化させたことはなかったように思います」(佐々木さん)
リーダーが担う「変革」と「決断」
近年は、「変革」を止めることが許されないと言っても過言ではない。しかしサイバーエージェントでは今、一際大きな変革期を迎えている。藤田 晋さんから山内さんへの代表の引継ぎだ。
創業者である藤田さんからバトンを受け取った山内さんは、サイバーエージェントという巨大な組織をどう変えていこうと考えているのか。その問いに、山内さんは冷静な姿勢を見せた。
「藤田にしかできないこともあれば、私にしかできないやり方もきっとある。そこは焦らずに、長い時間をかけて少しずつ変化させていきたいと考えています。
就任する前は『あそこを変えよう、これを動かそう』とあれこれ考えていた時期もありました。しかし、いざ代表を引き継いでみると、それどころではないというのが本音です(笑)
それに、現在は幸いにも業績が非常に好調で、盤石な状態にある。そんなときに急激に変革を起こそうとすると、かえって組織のリスクになりかねません。藤田が最高の状態で引き継いでくれたからこそ、まずはこの強固な基盤を確実に受け継ぐことに集中しようと考えています。そして就任から1年後を目途に、中長期の経営体制と新たなビジョンを発表する予定です」(山内さん)
そう、経営者としての覚悟を語った山内さん。では、創業から14年間freeeを率いてきた佐々木さんは、経営者としてどのようなセオリーを持っているのか。
佐々木さんは、経営者に対する一般的なイメージを軽やかに覆す、意外な持論を切り出した。
「真っ先に頭に浮かんだのは、僕はなるべく『決めないようにしている』ということです。決めなくていいことであれば、あえて決めない。それが私のスタイルであり、自然体なんです。
判断をあえて保留にして少し時間を置いておくと、自ずと状況が変わって『本当はどうしたかったのか』が見えてきたり、あるいは逆にどうでもよくなったりします。すると、結果的に良い方向へ転がることが多々あるんです」(佐々木さん)
一見、徹底した放任主義のようにも聞こえる。しかし、続く佐々木さんの言葉には、経営者としての責任と覚悟がにじんでいた。
「ただ、もちろん何でも現場に任せきりにするわけではありません。会社全体の意思決定のプロセスを見ていて、『何かが決定的に違う』『おかしな方向へ進んでいる』と気付いたときです。
例えば数年前、アンケートの統計や利用データの分析といった数字を頼りに意思決定を行う傾向が、社内で目立った時期がありました。『リアルなお客さまの声は聞いたの?』と何度も確認しましたが、思うように状況が変わっていかなかったんです。
そこで、一気に舵を切りました。全社として一番大切なのは、意思決定の際には必ずお客さまの声を聞くこと。そして、顧客満足度を高めることに注力する姿勢を根付かせました」(佐々木さん)
現状への不安は、むしろ健全
業界のトップランナーであり、一見すると順風満帆に見える両社。しかし対談が深まるにつれ、話題は経営トップの胸の内に潜む「不安」へと踏み込んでいく。
佐々木さんは、目の前の評価に安住することを拒む考えを口にした。
「現在、freeeはAIという領域でどこよりも最速で変化できているだろうか……という問いに対して、常に強い不安があります。
もちろん、社内を見渡せばポジティブな言葉や賞賛にあふれています。『これだけの成果が出ている』『自分たちが間違いなくナンバーワンだ』といった声もたくさん耳にします。しかし、そうした声に安堵する一方で、頭の中では『いや、まだこれもできていない、あれも足りない』という課題が次々と浮かんでくる。その繰り返しです。
ですが、傍から見れば順調に見える瞬間であっても、『本当にそうか?』と疑い続ける姿勢は、社会を牽引するプラットフォームを運営していく企業として忘れてはならないものだとも思っています。そしてそれが、経営者である僕の役割なんです」(佐々木さん)
不安を抱えているのは、承継直後のプレッシャーと対峙する山内さんも同じだ。しかし、その不安をエネルギーに変えるかのようにこう語った。
「今はまだサイバーエージェントの代表に就任したばかりで、頭の99%が不安で占められていますし、くよくよと考え込んで夜も眠れないことだってあります。ですが、『窮すれば通ず』という言葉がある通り、リスクを恐れずにチャレンジしたその先にしか、価値のある未来は作れません。
そこには、社長業特有の孤独がつきまといますが、これまでの経験上、『やってよかった』と心から思える瞬間は、やはり最後まで自分の責任で決断し、成果を導き出せたときなんです。
不安であるということは、自分自身が真剣に考え抜いている証拠でもある。そう捉えると、少しだけ心が軽くなる気がしますよね」(山内さん)
自らの不安すらガソリンへと昇華させる山内さん。そのメンタリティーの背景には、サイバーエージェントという組織が創業以来大切にしてきた人と組織の力への絶対的な信頼があった。
「サイバーエージェントのカルチャーの根幹にあるのは、自由と自己責任です。他人に押し付けられた目標ではなく、自分がやると決めた目標だからこそ、人は本気で頑張れる。自分で口にしたことには最後まで責任を持つ、という文化ですね。
この方針は、マネジメントとしては一手間かかるものかもしれません。『これをやってくれ』と指示を出す方が、短期的には圧倒的に楽ですから。
それでも、安易に指示を出すのではなく、面談などの対話を通じて『自分はどうしたいのか』を相手の内面からしっかりと引き出していきたい。その上で、本人の覚悟を確認するプロセスを大切にしています。人それぞれ個性があるので、会社と個人の目指すベクトルが重なり合う部分を探っていくことが重要だと考えています」(山内さん)
組織のカルチャーが一つの競争力として機能するサイバーエージェント。対して、freeeは「不動のビジョン」という軸を持つ。
「freeeは創業以来、一度も事業をピボットしていない会社です。ビジョンが完全に固定されていると言えるかもしれません。
freeeが何としても実現したいのは、スモールビジネスのための経営プラットフォームとなること。投資家の方々には『エンタープライズ向けのサービスに舵は切らないのか』と幾度となく聞かれてきました。ですが、答えは一貫して『それはやらない』です。
なぜなら、freeeが取り組もうとしている領域は、他のプレイヤーが本気で取り組んでいないにもかかわらず、世の中からは圧倒的に必要とされているから。このビジョンを追い求める中で、今の私たちのカルチャーも自然と醸成されてきました。
もちろん、カルチャーを言葉にして浸透させる活動もしていますが、freeeにとってはカルチャー以上に「ビジョンの実現」こそが最優先です。その目的を果たすためであれば、組織や会社自体の形は必要に応じて変わっていっても構わない。何よりも残していきたいのは、作ろうとしているプラットフォームの完成であり、ビジョンそのものなのだと、改めて強く感じています」(佐々木さん)
企業のフェーズも、経営者としてのスタイルも、一見すると対照的に見えるサイバーエージェントの山内さんとfreeeの佐々木さん。しかし、彼らの言葉の端々から伝わってきたのは、不安をも飼い慣らして組織を率いる者だけが持つ、共通の熱量だった。
変革の時代において、「リーダー」の仕事とは何か。それは仕組みで組織を揺り動かすことであれ、ビジョンを盾に退路を断つことであれ、自らが信じる未来に向かって旗を振り続けることに他ならないのだろう。
文・編集/秋元 祐香里(編集部)
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