株式会社タイミー
代表取締役
小川 嶺さん(@Ryo_Ogawa70)
1997年生まれ。立教大学在学中にアパレル関連事業で起業するも、一度は解散。アルバイトを複数掛け持ちする日々の中で「応募から勤務、報酬の受け取りが一つのアプリで完結できたら」と感じ、スポットワークサービス『タイミー』の開発に着手。2024年7月26日、東証グロース市場へ新規上場。
NEW! 働き方
AIをはじめとするテクノロジーの劇的な進化により、これまでの「正解」が瞬く間に過去のものとなる時代。スキルや価値観の絶え間ないアップデートに疲弊するエンジニアも多いだろう。
そんな状況において、タイミーの代表である小川 嶺さんは「創業時から価値観は変わっていない」とぶれない姿勢を示す。
急成長の末に上場を果たし、今や多くの利用者を抱える「社会的インフラ」とさえ言えるタイミーを取り巻く環境は、まさに大きなうねりの中にあるはずだ。なぜ彼は時代の波に飲まれず、強固な軸を保ち続けられるのか。
変わることを恐れない小川さんの思考法には、過渡期を生きるエンジニアが「自らの価値」を確立するためのヒントが眠っている。
株式会社タイミー
代表取締役
小川 嶺さん(@Ryo_Ogawa70)
1997年生まれ。立教大学在学中にアパレル関連事業で起業するも、一度は解散。アルバイトを複数掛け持ちする日々の中で「応募から勤務、報酬の受け取りが一つのアプリで完結できたら」と感じ、スポットワークサービス『タイミー』の開発に着手。2024年7月26日、東証グロース市場へ新規上場。
ーーAI時代を迎え、企業も個人も「これまでの正解」に固執しないアンラーニングが求められていると言われます。小川さんご自身が、この数年間で捨てた価値観はありますか?
事業に関しては、タイミーを創業したころから「お客さまに徹底的に向き合うことで売り上げを伸ばす」という考えに変わりはありません。人材育成においても「人には強みと弱みがあることを前提に、強みを伸ばす人材育成を行う」という方針を一貫して大切にし続けています。
なので、何かを“捨てた”というよりも、“アップデートした”といった方がしっくりきますね。さまざまな経験を積み重ねる中で、もとからあった考えがより骨太になっていきました。
ーー2020年のインタビューで、小川さんは「会社とは、さまざまな経験を積みながらレベルアップする場所である」と表現していました。この考えにも変化はありませんか?
「会社とはどういう場所か」という問いに対する本質的な考え方は変わっていません。ですが、タイミーという会社に関して言うと大きくアップデートされた点かもしれませんね。
ーー具体的にはどうアップデートされたのでしょう?
創業したばかりの頃はサービスを育てることがとにかく面白くて、目の前のお客さまを幸せにすることだけを考えていました。次々と現れる課題をゲームのクエストのように捉え、夢中で取り組んでいた。スタートアップとしてのマインドを強く持っていたんです。
ですが、今ではタイミーも上場し、社員数は1600名以上に。会社を取り巻く環境が大きく変わりました。背負っている責任の重さも違います。
創業から9年経ち、タイミーのワーカー数は累計で約1400万人(2024年4月末時点)に達しました。これは、日本の労働人口の約15%に相当します。大きな社会的責任がある会社だからこそ、「国のために」という意識が年々強くなっていますね。
ーー事業の規模が大きくなったことで、「目の前のお客さま」だけでなく、社会や国全体へと視野が広がったということですね。
はい。タイミーは、社会情勢や経済環境の影響をダイレクトに受けやすい人材サービスです。例えば、燃料価格の高騰や物流量の減少は、雇用の縮小につながり、売り上げに直接的な影響を及ぼします。少子高齢化や人口減少の進行も、今後の成長を考える上で無視できない要素になっていくでしょう。
裏を返せば、タイミーは社会や経済とのつながりが密接なサービスであると言えます。自社の成長だけではなく、日本全体をどう良くしていくかという視点こそ、ここ数年で最もアップデートされた価値観です。
ーータイミーによって、定年退職後のシニアやフルタイム勤務が難しい子育て世代など、これまで働く機会が限られていた人たちが気軽に仕事を選べるようになりました。すでに「国のため」を体現しているようにも思えます。
これまで埋もれていた労働力の喚起や、副業の促進に加えて、スポットで業務を経験できるといった面では、採用におけるミスマッチの防止にも貢献できている自負があります。
ですが、影響力があるサービスだからこそ、寄せられる声は決して好意的なものばかりではないのも事実です。「国のためにと思ってやってきたはずが、なぜそう受け取ってもらえないのか」とショックを受けたことは、一度や二度ではありません。
ーー批判の声に、小川さんはどのように向き合ってきたのでしょうか?
それを他者のせいにしてしまうのは停滞でしかないと受け止めてきました。タイミーの取り組みがネガティブな受け止められ方をされているのだとしたら、それは事業の本質を十分に伝え切れていなかったからです。
その経験を反省材料にして、「もっと良いサービスをつくる」「もっと正しく価値を伝える」という努力を、自責の思いとともに積み重ねていく。その繰り返しですね。
ーーどうして小川さんはそんなに前を向き続けられるんですか? 自身を取り巻く環境が変わるのは、誰でも怖いことだと思うのですが……。
私はZ世代として生まれ、大きな震災やコロナ禍による社会の変化や、テクノロジーの進歩を目の当たりにしてきました。変化が当たり前の時代に育ってきたからこそ、「変わることが怖い」という感覚があまりピンとこないのが正直なところです。
大切な軸は守りながらも、時代や環境に合わせて価値観を変えていくのはごく自然なことだと思っています。
ーー近年の変化で言うと、あらゆる意思決定にAIが活用されるようになっています。特に就職・転職活動では、AIを使えば簡単に「正解」らしきものが手に入るようになりました。こうした状況を、小川さんはどう見ていますか?
多くの人が当たり前のようにAIを使うことで、判断に至るまでのプロセスも似たり寄ったりになりますよね。すると、導き出される答えや行動も似てきてしまう。つまり、周りと同じようなキャリアを歩むことになってしまいます。
同世代の中で抜きん出て社会に貢献できる存在を目指すのなら、少なくとも他の人とは違う経験を積む必要があります。「自分だけの経験」の価値は、これからますます大きくなるのではないでしょうか。
ーー小川さんも、学生時代に起業して「人とは異なる経験」を重ねてきた当事者ですよね。
そうですね。目指す場所が明確に決まっていれば、ある意味では楽なんです。どんな人間になりたいのかというゴールがあるので、そこへ至るために何をすればいいのか、自然と道筋が見えてきますから。
ーーただ、早期から自分の進むべき道を見つけるのは簡単なことではないのでは?
特に近年は、AIやロボットの普及によって労働環境が大きく変わったことで、何が正解なのか分からない時代になっていますからね。
AIの波に飲み込まれる会社もあれば、追い風にして躍進していく会社もある。まさに過渡期にいるからこそ、「どの会社で働くべきか」という答えを持っている人はほとんどいません。
ーー正解が見えない時代、何を軸に会社やキャリアを選べばいいのでしょう。
大切なのは、自分が本当に興味を持てる場所を探すことです。
若手の場合、社会で戦っていく武器をまだほとんど持っていません。だからこそ、最初は「やる気」が何よりも重要です。企業からすれば、まだ能力や実績がない以上、最後は気持ちで戦ってもらうしかありません。
本気で頑張るためには、自分が心から興味を持てる対象でなければ難しい。自分に「ここで頑張るんだ」と無理に言い聞かせるのではなく、「このサービスは面白い」「この会社で働いてみたい」と自然に心が躍る場所を選び、そこで全力を尽くすことが、改めて重要になっているのではないでしょうか。
ーー自分の興味に従うというのは、簡単なようで難しい決断にも思えます。
その場合は、課題解決力やリーダーシップを伸ばせる環境をおすすめします。
組織の中でリーダーシップを発揮し、チームをまとめ、進むべき方向へ導く力は、どのような環境でも求められるものです。そのためには、協調性やコミュニケーション能力を身に付ける必要がありますし、そうした力は、たとえ状況が変わっても自分の中に残り続けます。
ーー現場で求められるスキルも変わっているのでしょうか?
AIの進化によって、単純作業や、長時間働くことで成果を出すような働き方の価値は低くなっていくでしょう。ですが、「もっと成長したい」「何としてでも成果を出したい」というマインド自体は、今も昔も変わらず重要です。
AIなどを活用して効率よく仕事を進め、生まれた時間で自分にしか出せない価値を発揮することに使う。このサイクルを回せる人材の価値は、ますます高まっていくに違いありません。
ーーテクノロジーが前提を塗り替えていく時代だからこそ、個人の姿勢が問われるのですね。
時代が大きく変化しているということは、それだけ新しいチャンスも生まれているということ。同じ時代を生きている以上、チャンスは誰にでも平等ですが、それをつかみとれるのは、常にアンテナを張り、変化を敏感に捉えている人だけです。
だからこそ、変化を恐れるのではなく、ぜひ楽しんでほしい。変化に合わせて学び続け、自分の考え方や働き方をアップデートしていく姿勢を持ち続けてほしいと思います。
取材・文/一本麻衣 編集/秋元 祐香里(編集部)
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