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「AIで仕事が速くなったのに、なぜか前よりしんどい」澤円が指摘する、生産性向上で見落とされがちなこと

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澤円の「モヤモヤ言語化ラボ」

元・日本マイクロソフト業務執行役員であり、“プレゼンの神”こと、澤円さんが、エンジニア読者のモヤモヤや気になるニュースを、分かりやすく“言語化”。「どう考えたらいいか分からない」を「そう考えればいいのか」に変える、頭と心の整理の場です。あなたが前に進むためのヒントを一緒に見つけていきましょう。

皆さんこんにちは、澤です。

今回の相談者さんは、多くのエンジニアが直面しているであろう、AI関連の悩みを相談してくれました。

相談内容

仕事でAIを使うことが増えて、コードを書いたり、調べ物をしたり、資料を作ったりするのが前よりかなり早くなりました。会社や上司も生産性が上がったことを喜んでくれていますし、自分でもAIを使って効率よく仕事ができるのはいいことだと思っています。

ただ、最近ちょっとモヤモヤしています。
タスクが早く終わるようになると、「じゃあ今までできなかったコレもできそうだよね」と新しい仕事が増えていきます。

会社や上司から言われるだけじゃなくて、自分でも「これだけ早くできるなら、あれもやれるかも」と、気づけば仕事を増やしたり、時間を費やしています。

その結果、AIで仕事は楽になったはずなのに、忙しさは変わらない。むしろ前よりしんどくなった気さえします。

これからAIがもっと便利になったら、効率化して、空いた時間で別の仕事をして、それも効率化したらまた別の仕事をして……と、ずっと続いていくんでしょうか。仕事を減らしてほしいだけなのかというと、それもちょっと違う気がします。

AIで生産性が上がるのはいいことのはずなのに、なぜか素直に喜べません。このモヤモヤは何なんでしょうか。

これ、多くのエンジニアさんが感じてることを代弁しているのではないでしょうか。

本来効率化すれば時間が余るはずなのに、なぜか隙間を埋められてしまう……
めちゃめちゃモヤモヤしますよね。わかります。

テクノロジーが発展すれば、人々は面倒な仕事から解放されて、暇な時間ができる……と多くの人は期待しているのではないでしょうか。

AIで仕事が速くなっても、仕事が減らない理由

これについて、ボクの大好きな経営学者のピーター・ドラッカーさん(※ちなみにご本人は「社会生態学者(Social Ecologist)」と自称なさっていたそうです)の話を思い出しました。

「仕事は、使える時間いっぱいまで膨らんでいく」というのは、パーキンソンの法則として知られている話ですよね。

ドラッカーさんも『経営者の条件』の中で、まず自分の時間が何に使われているかを記録して把握することの大切さを説いています(章タイトルは「汝の時間を知れ」)。

また、コンピュータについて、ドラッカーさんは「total moron(完全なバカ)」と呼んでいたそうです。論理で動くだけなので、何を目的にするか、何を優先するかは、人間が決めないと始まらない、という趣旨だと理解しています。

なかなか強烈な表現ではありますが、確かにその通りだよな、とも思いますね。

実際のところ、AIによって効率化しても、なぜか仕事は増やされてしまい、仕事が正しいかどうかまではAIは教えてくれなかったりしますからね。

さて、このように「せっかく生まれた時間」が他の仕事で埋められてしまうという地獄にどう対処すればよいでしょうか?

問題なのは「自分で選べていない」こと

これは、やり方というよりは、「どこに時間を使うか」を自分で選べているかどうかの話かな、とボクは思っています。

相談者さんにちょっと確認したいなと思うことがあります。
増えている仕事というのはどのようなものでしょうか?

・社会や顧客に明らかにいいインパクトを提供できるもの
・自分が心からやりたいと思っているもの
・どっちでもいいけど時間を埋めるためだけにやってるもの
・断るのも面倒なので引き受けてしまっているもの

ほかにもあると思うのですが、「解像度を上げてみる」のがまず大事ではないかなと思うわけです。

漠然と「仕事が減らない」と受け止めてしまうのではなく、「どんな仕事をしているのか」を見極めない限り、なかなか状況は改善しないでしょう。

ちなみに、今回のモヤモヤの正体は、「楽になるはずだったのに、楽になっていない」というギャップと、「増えた仕事を、自分で選んだと言い切れない」という感覚の、両方なんじゃないかなと、ボクは見ています。

上の四つのうち、前の二つは「選んだ仕事」で、後ろの二つは「流れで増えた仕事」ですよね。後ろの二つが増えているなら、AIで空いた時間を、自分の意思で使う方向に戻していく、というのが次の話になります。

「どっちでもいい」ものは、前にもお話ししたとおり、やらない一択です。

断るのが面倒で引き受けている分も、文句の中身を観察して、納得できなければ放置でOKだと、ボクは思っています。

AIと競うのは、新幹線と徒競走するようなもの

AIの登場によって、どんどん仕事のスピードはアップします。しかし、人間の処理速度は比例してはアップしていきません。なので、AIのペースに巻き込まれてしまうと、当然人間は疲弊するわけです。

以前、とあるイベントでご一緒した堀江貴文さんが、AIのスピードの速さについて「AIから見ると、人間は植物のように見えているのではないか。生きてはいるけれど、動きがものすごく遅い」とおっしゃっていました。

これはなかなか的を射た表現だなと思ったんですよね。

とにかくペースが違いすぎる。めちゃくちゃ仕事ができる同期とかがいると、ついつい「負けてなるものか」とちょっとした無理をした経験がある方もおられるでしょう。

この場合、相手は人間なので、切磋琢磨という意味で自分にもいい影響を与える可能性があります。

でも、AIと競うのは、新幹線と徒競走するようなものです。
競ったところで意味がないのは言うまでもありません。

なので、AIに任せた後の選択肢は大きく二つだと思っています。

まずは「自分のやりたいこと」にフォーカスする。
これは、これからのキャリアづくりにおいて最も大事だと思っています。
やりたいことをやるのは、人生の喜びの一つですし、意味のある時間の使い方です。
あとは、自分のやりたいことと、組織や社会へのインパクトをどうやってつなげるかがポイントになります。

自分のやりたいことが誰かのためになるなら、これは最高の組み合わせとなります。

AI時代こそ「余白をつくるのも仕事」と考えよう

もう一つが「余白を作るのも仕事」と心得ることです。

この連載の「サボる勇気」の回でも、サボって時間と心に余裕を作る話をしましたが、今回はAI時代の文脈で、もう少し掘ってみます。

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「余白があると埋めたくなる」というのは、ボクにも身に覚えがあります。スケジュール帳に空きがあると、なんとなく不安になって予定を入れちゃうんですよね。

心理学には、ツァイガルニク効果という話があります。

人は、やりかけで中断されたことのほうをよく覚えている、というものです。
空白を埋めたくなる理由そのものとは別の話ですが、「終わっていない感じ」が気持ちを落ち着かなくさせる、という意味では、つながっているのかなと思います。
あくまでボクの解釈ですが。

そして、これは完全にボクの肌感覚なんですけれど、最近、日本では情報をぎっしり詰め込むものが増えているように感じます。

たとえば、欧米の映画のシンプルなポスターに、日本版では文言がたくさん足されていたり、楽天市場やドン・キホーテのように情報密度が高かったり。

日本のウェブサイトに情報が詰まっている理由を、言語やチラシ文化、買う前に詳しい情報がほしいという気持ちから説明している『MultiLingual』の記事(2018年)があって、ボクはなるほどなと思いました。

もともと日本には、枯山水や水墨画のように、余白を大事にする美意識があります。ボクはそこが好きなんです。

そういう感覚を思い出して、「余白を作る」という意識を持つことも仕事のうち、と考えてもいいかもしれませんね。


澤円 書籍 The Giver 人を動かす方程式
The Giver 人を動かす方程式(文藝春秋)

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株式会社圓窓 代表取締役
澤 円(@madoka510)

立教大学経済学部卒。生命保険のIT子会社勤務を経て、1997年、日本マイクロソフトに転職、2020年8月に退職し、現在に至る。プレゼンテーションに関する講演多数。武蔵野大学専任教員。数多くのベンチャー企業の顧問を務める。 著書:『外資系エリートのシンプルな伝え方』(中経出版)/『伝説マネジャーの 世界No.1プレゼン術』(ダイヤモンド社)/『未来を創るプレゼン 最高の「表現力」と「伝え方」』(プレジデント社)/『「疑う」から始める。これからの時代を生き抜く思考・行動の源泉』(アスコム社)/『「やめる」という選択』(日経BP社) Voicyチャンネル:澤円の深夜の福音ラジオ オンラインサロン:自分コンテンツ化 プロジェクトルーム

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