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食品工場のお困りごと、「働き手がいない問題」に惣菜盛り付けロボ開発で挑むエンジニアの信念

働き方

技術で社会課題解決に挑む姿をクローズアップ!

ロボティクス開発者の野望

少子高齢化による労働力不足、コロナ禍に深刻化する人々の孤独や、非接触需要の高まり。今、あらゆる社会課題の解決に活用される「ロボット」を開発する人たちの姿にフォーカス。どんな想いや技術で課題解決に向かうのか、未来を見据える彼らの「野望」を聞いてみた。

人とロボットが並んでお弁当の盛り付け作業を行っている食品工場がある。

ラインに流れてくる唐揚げをなめらかな動作でつかみ、弁当箱へと移しているのは、盛り付け用人型協働ロボット『Foodly(フードリー)』だ。

現在、国内数カ所の食品工場で、『Foodly』の試験導入が始まっている

現在、国内数カ所の食品工場で、『Foodly』の試験導入が始まっている

人の仕事を丸ごとロボットに渡すのではなく、「人とロボットが隣で一緒に働く」ことにこだわって開発された『Foodly』。このロボットを生み出したのは、各種サービスロボの開発を手掛ける株式会社アールティだ。

同社で『Foodly』の開発に初期から携わってきたエンジニアの野村弘行さんに、弁当盛り付けロボ開発に懸ける思いを聞いた。

プロフィール画像

株式会社アールティ 野村弘行さん 

業務用センサーメーカーで組み込み機器のソフトウェア開発を担当する傍ら、趣味でロボットを製作し、競技会や催事の運営にも携わる。2017年にアールティへ入社。人型盛り付けロボット『Foodly』の開発に初期段階から従事。リーダーとしてソフトウエア全体設計をみている

深刻化する食品工場の人手不足。人と働き成長するロボで課題解決に挑む

――野村さんは以前、業務用センサーの組み込み開発を行なっていたとのこと。なぜ、そこからロボット開発の道に進んだのでしょうか?

もともと機械いじりが好きだったので、前職にいたころから趣味でロボット開発はやっていたんですよ。それで、ロボ開発の競技会や催事があれば、自主的に手伝いなんかもしていたんです。

野村さんが趣味で制作したロボットたち

野村さんが趣味で制作したロボットたち

学生時代は「ロボット開発の道に進んでも食べていけるか分からない」という不安があったので、趣味は趣味と割り切り、就職活動では業務用センサーメーカーに進むことにしました。

でも、30代半ばになりマネジャーの業務を打診されるようになったころ、「もうしばらく、現場でものづくりに携わっていたい」という思いが出てきたんです。

そんな時、ロボットのイベントで知り合ったアールティの方から「一緒にやらないか」と声を掛けてもらって。その縁をきっかけに、『Foodly』の開発に携わることになりました。

――あらゆるロボットがある中で、『Foodly』の開発に携わろうと思った決め手は何だったのですか?

『Foodly』が世の中にとって必要で、開発そのものも自分にとってチャレンジングだと感じたからです。

今、食品工場の労働力不足は皆さんが想像するよりはるかに深刻です。特に地方では、そもそも働き手が少ないため、報酬を高めに設定しても定員割れしてしまうところがあると聞きます。しかも、このコロナ禍で外国人労働者の多くが帰国を余儀なくされるなど、新たな問題も生まれているようです。

でも、食べることは人間にとって必要不可欠な行為。食品生産・製造に関連する仕事が、今後なくなることはありません。

それなのに食品工場で働く人がいなくなるということは、安定した食品の供給が難しくなる可能性があるということ。そのような事態は避けなければいけません。

そんな食の社会課題をロボットで解決しようというのが『Foodly』の試みです。

『Foodly』は「お弁当・お惣菜の盛り付け」に特化したロボットで、ディープラーニングを活用した AI Vision Systemにより、ばら積みされた食材を一つ一つ認識してピッキングし、弁当箱・トレイに盛り付けすることが可能です。

――人の仕事を完全に受け渡すのではなく、「人とロボットが共に働く」というコンセプトも『Foodly』の特徴の一つですよね。

ええ。人はさまざまなノウハウや、いわゆる“職人技”を、経験を重ねるごとにアップデートしていきますよね。人をすべてロボットに置き換えてしまうと、そうした人ならではの「技の進化」が生まれなくなってしまいます。

あえて現場に人を残すことで進化を止めず、さらにその技術をロボットが学ぶことでAIも成長していく。そういう世界を実現するために、「人とロボットの協働」にこだわっているのです。

TensorFlowを活用したディープラーニングで高度な画像認識を実現

――『Foodly』開発にあたってのこだわりポイントは?

一つは、盛り付け動作の正確性です。

実は食品の盛り付けは、ロボットにとっては非常に難しい動作なんですよ。

お弁当や惣菜の製造ラインでは流れてくる食品が一日に何度も変わります。さっきまではカボチャの煮物を盛り付けていたけれど、次はハンバーグが流れてくる、というように。

さらに同じハンバーグでも大きさや形は全く同じではありませんよね。だから、食品一つ一つに合わせて形を正しく認識し、正確かつ丁寧につかみ上げなければいけません。

形の把握については画像認識の精度を高め、形のばらつきが大きくくっついて見えてしまいやすい「唐揚げ」のような食品であっても正しく認識できるように開発をしています。

Foodly

説明用のイメージ。食品コンテナに積まれた食材が小さな個体の集合体であることを認識し、その一つを取り出して容器に盛り付ける。Google社のフレームワークTensorFlowを活用したディープラーニング(深層学習)により実現している(Foodly紹介ページより

盛り付ける動作に関しては、最初はハンバーグや肉団子など近い形状の食材10種類程度を基準に、だんだんと似たような大きさや硬さのものへ展開を進めています。最近は巻き寿司や千切りキャベツなど、丸い固形物以外の食材のピッキングにも挑戦しています。

もう一つのこだわりは「安全・安心」への配慮です。

『Foodly』は食品工場のほか、スーパーの厨房などでの活躍も想定しています。そうした現場はスペースが狭く、人とロボットの肩が触れ合うほど近い距離で作業を行わなければなりません。

従来のロボットだと、人とぶつかってケガをさせないように、柵で囲ったり、近くに人がいる間は仕事を止めて待つようにします。

しかし『Foodly』は人などがぶつかった場合でも衝撃に逆らわずに力を逃し、かつその後もスムーズに作業を再開できるように設計されているんです。ですから、ロボットと人の間に柵を設けずとも、事故が起こりにくい。また、現場からの強い要望で「ロボットの都合でラインを止めない」こともこだわったポイントです。

Foodly

人とぶつかっても衝撃を少なくするため、各モーター部にトルクと位置のハイブリッド制御を取り入れている

また、食品工場やスーパーの厨房では、性別だけでなく国籍や文化圏の異なるさまざまな人が働いています。どんな方が目にしても親近感を持ってもらえるように、大きさやフォルムに至るまで、ビジュアルを一から設計しました。

Foodly

『Foodly』は身長約150cm、肩幅約40cmと、圧迫感のないコンパクトなサイズに設計され、全体的に丸みを帯びたかわいらしいフォルムにもこだわっている。下部にキャスターがついており、移動も簡単だ

――非エンジニアが操作することを考えると、操作性などにも工夫が必要ですよね。

仰るとおりです。流れてくる食品が変わるたびに現場の方にプログラムや数字の設定を調整していただくわけにはいきませんから、使い方をできる限りシンプルにすることを追求しました。

Foodlyをコンベアの前に移動させたら、操作パネルで「唐揚げの盛り付け」のボタンを押すだけでOK。腕の動かし方や力加減はあらかじめ当社でティーチングをしており、現場では内蔵してあるプログラムで自動的に計算します。

Foodly

『Foodly』の操作画面。直感的に操作できるシンプルなデザインだ

『Foodly』のビジュアルや操作方法は、エンジニアが工場へ行って現場を見ることで生まれ、今も現場を見て日々アップデートを重ねています。「現場百回」という言葉の通り、エンジニアが自分の目で現場を見なければ分からないことがたくさんあります。

――食品加工の仕事をロボットが行えるようになると、「労働力不足」の解消のほかにどんなメリットがありますか?

まずは衛生面ですね。ロボットには体毛がありませんから、毛の混入などのリスクは避けられます。それに、生体由来の細菌を持ち込むことはありません。人が食材に直接触れるタイミングをなるべく減らすことで、食品の消費期限を延ばすという取り組みにもつなげられると期待されています。

また、コロナ禍の今は工場の三密回避も課題。そこで、ロボットを人と人の間に設置することで自然にソーシャルディスタンスをとれることも、最近になって注目されています。

さらに、社員の急な病気や育休などによる「一時的な人員不足」にも、『Foodly』は対応しやすいと思います。

「Work with Robot」から「Life with Robot」へ

――野村さんはもともと趣味でロボット開発をしていたわけですが、ロボットづくりが仕事になってどのような変化を感じますか?

ただ楽しみでやっていたロボット開発とは違い、「社会にいい影響を与えられている」という実感が持てるのは仕事として取り組むからこそですね。

以前、食の技術の展示会『FOOMA JAPAN』(フーマジャパン/国際食品工業展)に出展した際、『Foodly』を見た来場者から「こういうロボットが社会にとって必要だ」「未来のロボットのあるべき姿」といった言葉をいただいたことがありました。「労働力不足」という国全体で解消すべき課題に自分が貢献できていることを実感できて、とてもうれしかったです。

一方で、まだまだ先が長いことも感じています。将来的には『Foodly』のような人型協働ロボットをもっと社会に普及させたいと思っていますが、それは私個人や当社だけで実現するのは難しく、ロボティクス業界や社会全体で取り組んでいくべきことだと考えています。

先日、経済産業省が、人出不足が深刻な施設管理、小売・飲食、食品製造の三分野において、ロボットフレンドリーな環境構築を目指す「革新的ロボット研究開発等基盤構築事業」をスタートさせました。日本惣菜協会が事業を執行しており、当社も研究開発の一部を請け負っています。

今後は、こうした国が推進する事業の普及も、ロボットの浸透を後押ししてくれるのではないでしょうか。

――改めて、野村さんが感じるロボット開発の魅力とは?

Webサービスやアプリの場合、開発した結果は画面上に写されますよね。でも、ロボット開発の場合は自分の書いたコードで「現実のもの」を動かすことができる。これこそがロボット開発の唯一無二な部分で、大きな醍醐味だと思います。

また、『Foodly』のような人型ロボットには愛着も湧きますよね。アールティで働く社員全員が、「ちゃんと育ててあげなくちゃ」とわが子のように『Foodly』をかわいがっています。

――ロボット開発に向いているエンジニアとは、どんな人だと思いますか?

ロボットが好きな方ならどんな方でも。今は、Web系エンジニアなど、いろいろなバックグラウンドを持ったエンジニアたちが当社でも活躍しています。

また、向き不向きとは違いますが、今はUI/UXの知見のあるエンジニアのニーズが高いです。

ロボットを動かすときにも、Webサービスなどと同様に必ずインターフェースが必要ですよね。例えば『Foodly』はタッチパネルで操作しますが、「声」で指示するようなインターフェースがあってもいいかもしれません。

ロボットと人との関わり方、社会の関わり方をデザインしていくときには、UI/UXに基づいたアプローチが欠かせない。まだまだイノベーションのきっかけが眠っている領域なので、UI/UXの知見がある方は大いに活躍できるはずです。

――使い心地の良さは、ロボットを普及させるための必須項目ですよね。今後、野村さんが『Foodly』について改善したり、進化させたりしたいことは?

『Foodly』に関していえば、動作のバリエーションをもっと増やしていきたいです。

実は、『Foodly』はプログラムを変更すれば盛り付け以外の動作もできるんですよ。例えば、寿司ロボットメーカーの鈴茂器工(株)様とコラボして、鈴茂器工製の海苔巻きロボットを人の代わりに操作して海苔巻きを作れる『Foodly スズモコラボモデル』を製作しました。

他にもできることが増えれば、『Foodly』の可能性は一気に広がります。

――エンジニアとしての目標は?

今年40歳なので、後輩も育成しつつ、引き続きロボットでいかに社会を良くしていくかを考えていきたいです。

今は「Work with Robot(ロボットと働く)」の実現に取り組んでいる段階ですが、最終的にはアールティの大きなミッションでもある「Life with Robot(ロボットのいるくらし)」を実現することにも貢献したいですね。

取材・文/古屋江美子 編集/河西ことみ(編集部)

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