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エンジニア転職の「正解」が変わった。「年収ダウン」「事業会社」「社内SE」を安易に選んではいけない理由

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エンジニアの転職には、いくつもの「正解らしきもの」がある。

「将来のためなら、いったん年収を下げてでも経験を取りにいくべき」
「転職エージェントに相談すれば、自分に合った会社を紹介してもらえる」
「SESや受託より、事業会社に行った方がいい」
「客先常駐がつらいなら、社内SEになればいい」

どれも一見、もっともらしい。

しかし、エンジニアの採用市場や企業の採用事情が大きく変わる今、こうした「転職の定石」をそのまま信じることが、かえってキャリアの選択肢を狭めることもある。

では、何を基準に転職先を選べばいいのか。

エンジニア組織の採用・制度づくりに携わりながら、数多くのキャリア相談を受けてきた久松 剛さんはこれまで、転職市場にまつわるさまざまな常識に疑問を投げ掛けてきた。

今回はその中から四つのテーマを振り返りながら、変化の激しい時代にエンジニアが転職で見落としてはいけないことを考えていく。

「もっと稼ぎたいなら一度下げろ」は信じるな

「もっと稼ぎたいなら、あえて一度年収を下げるのもアリ」

目先の給与ではなく、将来につながる経験を取りにいく。長いキャリアを考えれば、合理的な選択にも思える。

しかし久松さんは、これをエンジニアが安易に実践するのは危険だと警鐘を鳴らす。その理由の一つが、エンジニアの成果は「個人の成果」として切り出しにくいことだ。

久松さん

あなたが開発した機能のおかげで、プロダクトが爆発的に売れたとしましょう。会社は潤いました。では、その利益を誰に分配するか。ここで必ず「誰の手柄論争」があります。

・マーケティングが優秀だったのか?
・営業が足で稼いだのか?
・UI/UXデザインが良かったのか?
・それともバックエンドの堅牢性のおかげなのか?

これらが複雑に絡み合う事業会社において、売上の向上を「エンジニア個人の成果」として客観的に切り出すことは、ほぼ不可能です。

久松さん

これがSESやSIerなら話は別です。「君の単価が月10万円上がったから、給与にも反映しよう」という分かりやすいロジックがあります。しかし、事業会社にはその指標がない。

エンジニアが期待値(年収)を下げて入社すると、その低いベースがあなたの基準価格として固定されてしまい、かつ、そこから劇的に年収を上げるための「客観的なテコ」は存在しません。

もちろん、年収を下げる転職そのものが間違いなのではない。重要なのは、「経験を積めば、いつか上がるはず」という曖昧な期待だけで決めないことだ。

もし給与を下げてでも入りたい会社があるなら、「何を達成すれば、いつ、いくらになるのか」。久松さんは、入社前に具体的な成果と報酬の条件を握ることを勧めている。

「成長できそうだから」という期待だけで、現在の市場価値を安売りしてはいないか。未来への投資という言葉こそ、一度疑ってみる必要がありそうだ。

「もっと稼ぎたいなら一度下げろ」は信じるな。エンジニアの年収ダウン転職は、キャリアの致命傷になる
「もっと稼ぎたいなら一度下げろ」は信じるな。エンジニアの年収ダウン転職は、キャリアの致命傷になる

「転職エージェントに頼めば安心」はもう古い

自分一人では、世の中にある企業を全て調べることなどできない。だからこそ転職エージェントに希望条件を伝え、自分に合った求人を紹介してもらう。それは今でも転職活動の一般的な方法だ。

しかし久松さんによれば、エージェント経由の転職活動は高確率で「行き詰まり」を迎えるという。

久松さん

現在、エンジニア採用における人材紹介会社の手数料は、かつてない水準に跳ね上がっています。背景にあるのは、エージェント側の莫大な集客コストです。

テレビCMやWeb広告、SEO対策などに尋常ではないマーケティング費用が投下された結果、大手人材紹介会社がエンジニアを一人獲得するための単価(CPA)は、120万〜130万円を突破しているケースが珍しくありません。

高騰したコストを回収するためには、企業から「年収の45%」以上の紹介手数料をもらわないと、エージェント側もビジネスとして割に合わなくなっています。

そのしわ寄せを受けているのが、莫大な採用費を投じるほどではないものの、堅実に利益を上げている企業だ。

久松さん

経営陣から見れば、年収の45%もの手数料を払って採用した人材が、もし短期で離職してしまった場合、費用対効果が悪すぎて目も当てられません。

結果として、「エージェント経由の採用はコストが合わない」と判断して利用を控える。無理に利用したとしても、エージェントが設ける高い手数料の足切りラインを下回るため、キャリアアドバイザーの検索データベースにすら表示されなくなってしまいます。

これが、今の転職市場のリアルです。エージェントに登録して待っていても、そこに「ちょうどいい会社」は存在しません。

その結果、転職エージェントの市場は「高額な紹介料を払ってでも採用したいハイクラス求人」と「派遣・SESなどの大量採用求人」に二極化している。

「エージェントに登録して希望を伝えれば、自分に合う会社を網羅的に探してくれる」とたかをくくっていると、知らないうちに、その偏った選択肢の中だけで転職先を探すことになってしまう。

もはやエージェントに任せるだけでは、「ちょうどいい会社」にはたどり着けなくなっているのだ。

「転職エージェントに頼めば安心」はもう古い? 転職市場から“ちょうどいい会社”が消滅しつつある理由
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「転職するなら事業会社」は絶対解ではなくなった

エンジニアの転職では、「SESや受託から抜けて、事業会社へ」というキャリアが一つの王道として語られてきた。自社プロダクトに携われて、働き方も柔軟。そんなイメージから事業会社を志望する人も多いだろう。

だが久松さんによれば、今、その前提にも変化が起きている。

久松さん

まず大前提として、現在の事業会社は目に見えて採用を絞っています。スタートアップ不況を乗り越えた体力のある企業であっても、AIの台頭を契機とした「IT組織や開発リソースの根本的な見直し」が顕著に進んでいるからです。

事業会社の門戸が狭くなる一方で、意外にも存在感を増しているのがクライアントワーク企業だ。大手企業など特定の顧客と強い関係を築いている会社では、案件も安定しているという。

久松さん

そして意外なことに、事業会社ではほぼ「宝くじに当たる確率」と言われるほどのフルリモート・フルフレックス求人が、クライアントワーク側には一定数以上存在しています。

これはSESやSIerが特別にリモートを推進したいわけではなく、コロナ禍に全国採用を展開しすぎた結果、既存メンバーが地方に点在しており「もはやオフィスに集合させようがない(ある意味で諦めている)」という物理的な事情も背景にあります。

「自社開発なら安定していて、働きやすい」「クライアントワークはその逆」そんな分かりやすい図式は、すでに崩れ始めている。

事業会社か、SES・SIerかという会社の肩書だけを見ていては、転職先の実態を捉えきれない。見るべきなのは、その会社が何者かよりも、今どんな仕事をしていて、これからどこへ向かおうとしているのかなのかもしれない。

採用を絞る事業会社と行き場を失うフリーランス。エンジニア転職の常識を変える「クライアントワーク企業の事業会社化」
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「社内SEは働きやすい」は幻想

そしてもう一つ、久松さんが警鐘を鳴らすのが「社内SEへの転職」だ。

近年、人材紹介の現場では、客先常駐やデータセンターでの運用業務などに携わってきたエンジニアから、「自社の中で腰を据えて働きたい」と社内SEを希望するケースが増えているという。現場が頻繁に変わらず、顧客ではなく同じ会社の社員を相手にする。今の働き方に疲れている人ほど、魅力的な選択肢に見えるかもしれない。

しかし久松さんは、社内SEを「安全な避難先」として選ぶことに警鐘を鳴らす。

久松さん

社内SEを目指す人からよく聞くのが、「顧客ではなく同じ会社の人を相手にする方が楽そう」という話です。しかし、そんなものは入社する会社によって全く異なります。

社内のITリテラシーが高く、情シスへの理解がある会社なら働きやすいでしょう。しかし、社員のITリテラシーが低く、情シスを「何でも屋」だと考えている会社に入ると、ヘルプデスク業務にかなりの“地獄味”を味わうことになります。

久松さん

また、社内SEだからといって残業や休日対応がないとは限りません。むしろ新入社員が大量に入社する時期には、PCのセットアップが間に合わず、年度末の土日に出勤することも多いです。オフィスのネットワーク工事やフロア移転があれば、社員がいない夜間や休日に作業しなければなりません。

「客先常駐から離れれば対人ストレスや突発対応から解放される」と安易に考えているなら、一度立ち止まった方がいいでしょう。

今の不満の「反対側」に移れば、問題まで解消されるとは限らない。仕事内容や働き方だけでなく、そこで積む経験が次のキャリアにつながるのかまで見ておかなければ、気付いた時には別の場所で身動きが取れなくなっているかもしれない。

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「正解」を選ぶより、その前提を疑う

年収は下げない方がいい。
エージェントだけに頼らない方がいい。
事業会社という名前だけで選ばない方がいい。
社内SEを逃げ道にしない方がいい。

ここまで読むと、逆に「じゃあ、結局どうすればいいのか」と思うかもしれない。だが、今回取り上げた4つの話に共通しているのは、「こちらが正解だ」と別の選択肢を提示することではない。転職市場で語られる「正解」には、それが成立する前提があるということだ。

市場環境が変われば、企業の採用事情も変わる。自分の年齢や年収、経験によっても、同じ選択の意味は変わる。だから、「一般的にはどちらが得か」だけでキャリアを決めることはできない。

その選択によって、自分は何を得るのか。何を失う可能性があるのか。そして、その先にはどんな選択肢が残るのか。

転職の「勝ち筋」を探すなら、世の中にある正解を集めるより先に、その正解が自分にも当てはまるのかを疑うところから始めた方がいいのだろう。

プロフィール画像

博士(慶應SFC、IT)
合同会社エンジニアリングマネージメント社長
久松 剛さん(@makaibito)

2000年より慶應義塾大学村井純教授に師事。動画転送、P2Pなどの基礎研究や受託開発に取り組みつつ大学教員を目指す。12年に予算都合で高学歴ワーキングプアとなり、ネットマーケティングに入社し、Omiai SRE・リクルーター・情シス部長などを担当。18年レバレジーズ入社。開発部長、レバテック技術顧問としてキャリアアドバイザー・エージェント教育を担当する。20年、受託開発企業に参画。22年2月より独立。レンタルEMとして日系大手企業、自社サービス、SIer、スタートアップ、人材系事業会社といった複数企業の採用・組織づくり・制度づくりなどに関わる傍ら、ITエンジニアや学生からのキャリア相談を受け付けている

編集/今中康達(編集部)

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