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「今のスマートホームはスマホがリモコンになっただけ」成田修造が挑む、家自体をAI化する泥臭い“総合格闘技”

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株式会社クラウドワークスのCOOなどを歴任し、IT・Web業界の最前線を駆け抜けてきた成田修造さん。ビジネスリーダーとしてソフトウエア領域でキャリアを築いてきた彼が、次なる舞台として心血を注いでいるのは、画面の中のコードだけでは完結しない「住宅」と「ロボティクス」の世界だ。

AIがソフトウエア開発のあり方を根底から覆しつつある現在、多くのエンジニアが「次に張るべき領域」を模索している。そんな中、成田さんはなぜ、メカやエレキ、さらには建築といった異分野が複雑に絡み合う“カオスなフィジカル領域”へと飛び込んだのか。

そこには、世の中に溢れる「スマートホーム」への強烈な違和感と、予測不能な未来を自ら面白がり、キャリアを切り拓くためのヒントが隠されていた。

成田修造さん

起業家・エンジェル投資家
株式会社MW Co-Founder & CEO
成田修造さん(@shuzonarita

1989年東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部在学中にアスタミューゼ株式会社に参画し、オープンイノベーション支援サービス『astamuse』の事業企画を手掛けたほか、大手人材紹介会社との提携事業の立ち上げなどに携わる。その後、アート作品の解説まとめサイトなどを手掛ける株式会社アトコレを起業し、代表取締役社長に就任。2012年に株式会社クラウドワークスに参画し、執行役員、取締役副社長兼COO、取締役執行役員兼CINOを歴任した。2022年12月にクラウドワークスを退社。24年に株式会社MWを共同創業し、現在はAI・ロボティクスと建築を融合した次世代住宅「Living Home」の開発・提供に取り組む。著書に『14歳のときに教えてほしかった 起業家という冒険』(ダイヤモンド社)など

15年越しに掴んだ、フィジカル領域への挑戦権

2012年の創業期から株式会社クラウドワークスに参画し、取締役副社長やCOOとして同社の急成長を牽引してきた成田修造さん。日本のIT・Web業界の第一線で目覚ましい実績を残してきた彼だが、意外なことに当時の心境をこう振り返る。

「18歳ぐらいの時には起業することを決めていたんですが、元々やりたかったのはロボットや宇宙ロケット、ブレイン・マシン・インターフェースのような領域でした。ソフトウエアは本来やりたかったことではなく、仕方なくやっていたというのが正直なところです」

彼が起業を志した2008〜2009年頃の日本は、ライブドア事件の余波が色濃く残り、スタートアップへの風当たりが極めて強かった時代だ。

Webサービスであれば小規模な資金とPC一台で立ち上げられるが、ハードウエアやディープテックと呼ばれる領域には莫大な研究開発費が必要になる。しかし当時の日本には、そのような不確実性の高い物理的プロジェクトに数億円規模の資金を投じる「リスクマネー」の土壌は皆無だった。

「本当にあの20年間、日本のスタートアップ環境はひどすぎた。インターネット領域で小粒な成功はありましたが、リスクマネーの供給や挑戦を後押しする風土があまりにもなく、せっかく挑戦した人たちの芽を摘んできた歴史があります。その結果、グローバル競争ではもう全然太刀打ちできないレベルになってしまったんです」

Web業界で結果を出し続ける一方で、成田さんの目は常にフィジカル領域に向けられていた。そして約15年の時を経て、時代が静かに動き始める。要素技術の進化はもちろん、日本でもようやくハードウエア・ディープテック領域へ資金が流入するエコシステムが形成され始めたのだ。

「米中と比べればまだまだですが、日本における挑戦の風土がようやく少しはまともになってきた。15〜16年越しに、ようやく自分のやりたかったテーマへの『挑戦権』を得たという感覚です」

成田修造さんがフィジカルAI領域へ挑戦した背景について語っている様子

今のスマートホームは、スマホがリモコンになっただけ

数あるフィジカル領域のテーマの中から、成田さんが照準を合わせたのが「住宅」という巨大なリアルアセットだった。その根底には、彼自身の強烈な原体験がある。

「僕は14歳の時に父親が失踪し、中高生の頃から、一通りの家事を自分で担ってきました。加えて、高齢で障がいのある母が一人で暮らしていたため、15年ほどにわたって、その生活を見守りながらサポートしてきたんです。

その中で痛感したのが、年齢を重ねるにつれて、家事の負担は圧倒的に大きくなっていくということ。家事をこなすこと自体が、衛生面や健康面だけでなく、精神的にも大きな負担になっていく。その苦しさを、間近で見てきました」

今後、高齢化が進み独居家庭が増加する日本において、この「家事の負荷」は間違いなく深刻な社会問題になる。個人的なペインと社会課題が交差するこの領域こそ、人生を賭けるに値するテーマだった。

しかし、既存のテクノロジーが提供する解決策は、成田さんの目にはあまりに力不足に映っていた。現在、世の中には数多くのIoT家電が存在し、スマートホーム市場は拡大を続けているが、根本的な解決には至っていない。

「自分でもスマートデバイスをたくさん買って試しましたが、劇的に体験が変わるようなところまでは来ない。結局、従来のスマートホームは『スイッチがスマホに変わったよね』という程度の変化でしかなく、デバイスのセットアップをユーザーに強いるため、ごく少数の人しかメリットを享受できていません。根本的に時間の使い方が変わったり、QOLが上がったりするレベルには達していないのが現状です」

そこでMWが構想したのが、デバイスの集合体ではなく、家全体を一つの統合されたシステムとして構築する「Living Home(生きた家)」というコンセプトだ。

「センサーを知覚として家の中に介在させ、ロボットが手足や目の役割を担う。つまり、家自体が『身体性』を持つところまで持っていきたい。今までの静的な住宅ではなく、動的な生命体に家を変えていくというアプローチですね。

ちなみにこの着想の原点は、映画『アイアンマン』シリーズの主人公、トニー・スタークの家です。彼の邸宅には『J.A.R.V.I.S.(ジャービス)』というAIが搭載されており、ロボットアームや各種住宅設備といったハードウエアとも完全に接合されていて、家全体がAIとして統合されている。あんな家を作りたいというのが一番最初の着想でした」

MWの「Living Home(生きた家)」というコンセプトについて解説している成田修造さんの様子

目指すはソフトウエアで「経年優化」する家作り

「生きた家」を実現するため、MWが取った技術的な選択は非常にユニークだ。現在、世界のテックジャイアントやスタートアップの多くが、二足歩行の「汎用ヒューマノイド(人型ロボット)」を開発し、それを家庭空間に投入しようとしのぎを削っている。

しかしMWは、ロボット単体を独立して歩かせるのではなく、家側の「天井」にレールを敷設し、そこから吊り下がる形の「準人型ロボット」を住宅と統合させる道を選んだ。

床を歩行するロボットには、障害物の回避やバランス制御、バッテリー容量といった技術的ハードルがつきまとう。しかし天井の軌道に固定すれば、常に安定した電力供給が可能になり、空間の3Dマッピングや座標制御の難易度もコントロールしやすくなる。家そのものを「ロボットが機能しやすい空間」に再定義しているのだ。

「僕たちが今考えているのは、細かいタスク精度を競うことではなくて、QOLを上げることなんです。例えば、朝バタバタしてベッドがぐちゃぐちゃ、洗面所が水浸しで家を出たとする。でも、帰ってきたら玄関がすごく整っていて、洗面台が拭かれてタオルが交換されていて、ベッドメイクされている。これってかなりQOLが上がると思うんですよ」

だが、ロボットのアームやモーターなどのハードウエアには物理的な可動限界があり、数年も使えば必ず経年劣化や陳腐化を起こす。この耐用年数やメンテナンス性の課題にどう向き合っているのか。

成田さんの答えは、IT領域を歩んできた彼らしい「合理的な割り切り」だった。

「例えば、テスラだって壊れますよ。5年とか10年もしたらどこかしら不具合が起きる。けど、ソフトウエアは常にアップデートされていくじゃないですか。僕らが目指すスマートホームも同じです。

重要なのは、ハードウエアが稼働しているその5年〜10年の間、中のOS(AI)が進化し続けることで、同じ機体であっても『できる家事のバリエーション』が増え続ける点にあります。それこそ、僕が使っているiPhoneも買ったのはもう何年も前なのですが、ソフトウエアをアップデートしているから中身は最新の状態。それと同じことが、家にも起こるということです」

完成した瞬間に価値が最大化し、あとは劣化していくだけの従来の住宅。それに対し、MWが作るのは、ハードウエアが寿命を迎えるその日まで、ソフトウエアの力で「経年優化」していく家だ。

MWのAIロボット(MW bot)は、住空間の天井に埋め込まれた専用レールで家の中を移動する

MWのAIロボット(MW bot)は、住空間の天井に埋め込まれた専用レールで家の中を移動する

「強烈でクリアなビジョン」がカオスな開発現場を前進させる

MWが標榜するアーキテクチャの思想は極めて洗練されているが、実際の開発現場は、コードの書き換えで完結するWeb・ソフトウエアの世界とは比較にならないほど泥臭い。

MW起業後、成田さんを待ち受けていたのは、想定外の事態が容赦なく襲いかかる「物理世界の壁」だった。

「想定外のトラブルなんて、もう日常茶飯事ですよ。例えば、突然電流の問題や通信の問題が起きてシステムが止まってしまったり、ハードが壊れてしまったり。一個一個細かく対応しながら改善していくしかありません。

そもそも『住宅にレールを入れる』ということ自体が世界初の取り組みなので、レールをつけた時に思ったよりも干渉して動かなくなったり、すごい音の問題が起きたり、思ったよりサイズが大きくなって小型化しなきゃいけなくなったり。当初想定していたものから染み出て、山ほど問題が起きています。

それこそ、家事のタスクをAIに学習させるためには、たくさんのロボットを作って練習させなきゃいけない。でも、ロボット一台一台がやっぱり高いんです。資金的な制約がある中で数を増やせず、開発スピードが上がりにくいというハードルもあります」

そして何より困難を極めるのが、開発組織の構築だ。MWが挑む「生きた家」の実現には、Webエンジニアだけを集めれば済む話ではない。成田さんはこれを「総合格闘技」と表現する。

「AIロボットを作るのって、結構な総合格闘技なんですよ。メカのエンジニアも必要だし、電気や通信を司る電装エンジニア、制御のソフトウエアエンジニア、ハードウエアのデザイナー、そしてAIの学習データを集めて自律的に動かす実装をするエンジニアも必要。さらには、量産化のための規格化も考えなきゃいけない。しかも僕らは『家』まで作っているので、空間を作り出す建築家や、施工する人たちとも密に連携しなくてはなりません」

MWのトレーラーハウス

MWのプロダクトのデモを最初に行うための、東京郊外にある専用トレーラーハウス。内部は小さなパースのような住空間となっている

使用する言語も、バックグラウンドも、常識も異なる多種多様なプロフェッショナルたち。このカオスな組織を統合し、同じ方向を向かせるために必要なものは何なのか。成田さんは「強烈でクリアなビジョン」に尽きると語る。

「結局、『どういうものを作りたいのか』というイメージをはっきり持つこと。それが全てだと思います。スティーブ・ジョブズも、上がってきた施策に対して『これじゃない』と明確に言えました。それって多分、頭の中に『こういうものだ』という映像がはっきりとあったからだと思うんです。僕らも同じで、『こういう家を作りたいんだ』という共通認識を持てるかがまず重要です」

困難の連続であっても、そこに「世界初の挑戦」というワクワク感があり、メンバー全員がそのビジョンに共鳴しているからこそ、人もお金も集まってくるのだという。

そして、この「誰もやっていない難しさ」にこそ、ビジネスとしての、そしてエンジニアのキャリアとしての最大の勝機が潜んでいる。

優秀なエンジニアほど「人気領域」を避けよ

メカ、エレキ、ソフト、建築。これほどまでに複雑で困難な「総合格闘技」にあえて挑むのはなぜか。それは単なる知的好奇心からではなく、極めて合理的でしたたかなビジネス戦略でもある。

「人型ロボットはいろんな会社がトライしていますけど、僕らのアプローチでやっている会社は多分、世界で僕らしかいません。裏を返せば失敗する可能性もありますが、うまくいけば競合がいないことになります。

任天堂やユニクロ、ドン・キホーテがなぜうまくいっているのか。突き詰めれば、他の人たちがやっていないことをやっているからです。複雑で誰もやっていないことをやり切れば、それは強固な競争優位になります」

あえて他人がやらない、困難で複雑な道を選ぶ。この事業戦略は、激動の時代を生きるエンジニアの「キャリア戦略」にも重なる。

AIの急速な進化により、今まで安泰だと思われていた技術やポジションが明日には陳腐化するかもしれない。そんな予測不能な時代において、エンジニアはどうキャリアを選択すべきなのか。

「もし自分が、相対的にある程度『優秀だ』と思うのであれば、今人気になっている領域や、すでにうまくいっていそうなところには行かない方がいいですね。他の人は取らない選択でも『自分はこれが面白いな』と思えるものに賭けていった方がいい。その方が絶対に人生は豊かになります」

AI時代のエンジニアの生存戦略について、優秀だという自負がある人ほど人気領域は避けた方がいいと語る成田修造さん

自分の目で「今はまだ海のものとも山のものともつかないが、確実に面白い」と思える未知の領域に張るべきだと成田さんは語るが、先が見えない領域に飛び込むことに不安を覚える人も多いだろう。その不安に対する彼のアドバイスは、実にシンプルだ。

「みんな、難しく考えすぎなんですよね。別に失敗してもそんなに大きな問題じゃないですよ。ただ、自分の能力の限界ギリギリがどこなのかをシビアに見定める必要はあります。その絶妙な目標設定の中で、『ワンチャンこうなったら面白いんじゃないか』と思えることに果敢に挑戦することが重要です。

なぜその道を選んだのか。それが自分の中で言語化できていれば、たとえ事業として失敗したとしても、個人を評価してくれる人は必ずいます。盲目的に面白いところに行けと言っているわけではなく、『世の中がこういう状況で、まだ誰もやっていないけれどチャンスだと思ったから挑戦した。結果はこうだった』と説明できればいい。

その結果だけを見て評価をつける人もいるでしょうが、『そういう考え方をしたのね、面白いね』と拾い上げてくれる人が必ずいるはずなんです。私は、そういう人生の方が好きですね」

AIによって技術の常識が次々と塗り替えられる今、「人気領域」に留まることの方が、かえってリスクになり得る。

画面から目を上げ、自分だけが面白いと思える未知の領域へ踏み出してみる。成田さんの挑戦は、これからのエンジニアのキャリアを切り拓くヒントになるはずだ。

取材/武田敏則(グレタケ) 撮影/竹井俊晴 編集/今中康達(編集部)

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