サイゼリヤ
代表取締役社長
松谷秀治さん
1958年生まれ。1984年サイゼリヤ入社。資材部長を経て2010年、取締役執行役員就任。マーチャンダイジング・戦略インフラ・総務の各本部長を歴任。22年、代表取締役社長に就任し、低価格戦略を推進
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原材料費やエネルギー価格、人件費が上がれば、商品の価格も上げる。ビジネスとして考えれば、ごく自然な判断だ。
しかし、サイゼリヤは違った。
外食産業が相次いで値上げに動く中、「価格据え置き」を宣言。価格を変える代わりに、店舗オペレーションを一つ一つ見直していった。
同社を代表する「ミラノ風ドリア」を値下げした際には、先に価格を決め、そこから利益を出す方法を逆算。メニューの絞り込みから国内外の工場建設まで、サプライチェーン全体をつくり変えたという。
変えられない条件があるとき、何を変えるのか。
制約の多い環境で日々ものづくりに向き合うエンジニアにとっても、この問いは決して他人事ではないだろう。
サイゼリヤ代表取締役社長・松谷秀治氏に、同社が「うまくて安い」を実現してきた背景と、判断に迷ったときに立ち返る原点を聞いた。
サイゼリヤ
代表取締役社長
松谷秀治さん
1958年生まれ。1984年サイゼリヤ入社。資材部長を経て2010年、取締役執行役員就任。マーチャンダイジング・戦略インフラ・総務の各本部長を歴任。22年、代表取締役社長に就任し、低価格戦略を推進
レストランチェーンは、何のために存在するのでしょうか。
突き詰めれば「暮らしを豊かにするため」にあると私は考えています。そして、サイゼリヤは、この存在意義を何よりも大切にしています。
どんな人でも差別なく、価格を気にすることなく、気軽に外食を楽しめる。そんな豊かさを社会に提供することだけを考えて経営してきました。
今からおよそ3年前、原材料費やエネルギー価格が高騰し、外食産業は軒並み値上げへと舵を切りました。
それでは、人々の暮らしは豊かにならない。そう考えた私は、「価格据え置き」を宣言しました。
多くの人が「暮らしが苦しい」と感じている中、誰もが普段使いできる価格を維持するべきなのは自明のことでした。いくら原価が上がっているからといって、何の努力もせずに値上げを行うのは、私たちの存在意義に反することだったのです。
では、何を変えれば「価格据え置き」を実現できるのか。
私が注目したのは、店舗のオペレーションでした。
例えば、テーブルの片付けにまで手が回らないと、空席があってもお客さまが入店できません。すると、お客さまは入店を諦めて帰られてしまいます。
こうした機会損失を減らすため、お客さまの入店から退店まで、全てのプロセスにおいてやりづらい作業を一つ一つ改善し、徹底的にむだを削減しました。
その結果、一般的なファミリーレストランよりも3~5割ほど安い価格帯を実現し、独自路線のレストランとなったわけです。
もっとも、「自分たちが儲けることよりも、お客さまの暮らしを豊かにすることを優先する」という信念は、今回の価格据え置きで生まれたものではありません。
サイゼリヤが創業以来、大切にしてきた考え方です。
それを象徴するのが、1999年のミラノ風ドリアの値下げです。
一般的には、原材料費や人件費、家賃などのコスト、ライバル店の価格を勘案し、利益を織り込んで価格を決めるでしょう。
しかしサイゼリヤは逆です。
まず、お客さまが気兼ねなく楽しめる価格を設定し、そこから逆算して、どうしたら利益が出せるか皆で知恵を絞る。
ミラノ風ドリアを480円から290円に値下げした時もそうでした。実現方法を考える前に、値下げが決まったのです。
ミラノ風ドリアは、当時から一番の売れ筋商品。値下げをすればオーダー数は増えるでしょうが、このままでは利益は出せません。
また、コストを下げるため品質を落とせば、お客さまに安かろう悪かろうというイメージを与えてしまい、いずれ売上の落ち込みは避けられないでしょう。
そこで、私たちはメニューの絞り込みやサプライチェーン全体の再構築を図りました。
良質な米が集まる福島に精米工場を建て、ドリアに最適なホワイトソースを調達するためオーストラリアに工場を建設。
単にコストを削るのではなく、効率化と品質向上を同時に追求した結果、ミラノ風ドリアのオーダー数は値下げ前の5倍になり、290円でも利益が出せる体制をつくることができました。
今も地域紛争や円安による原材料費や人件費の高騰は続いています。飲食業界にとって厳しい状況は続きますが、皆さんが値段を気にせずに外食を楽しめる文化を守るため、私たちは努力を続けていきます。
「暮らしを豊かにすることにつながるか」を軸に経営を行ってきた私ですが、最初からこう考えていたわけではありません。
入社したてのころの私は、ビジネスとは金儲けのためにやるものだと思っていましたし、自分が出世することばかりを考えていました。
そんな私に対して、当時店長だった現会長は「お前に『世のため人のため』の仕事はできない」と言い放ちました。
「人間は誰しも自分が一番可愛いもの。それでも人の役に立ちたいという気持ちがあるのなら、人生の51パーセントを世の中のために尽くせる人を目指しなさい」
その言葉に、目が覚める思いがしたものです。
今も経営者として決断を下す際には、「お客さまのためと言いつつ、自分のためになってはいないか」と自問自答しています。
サイゼリヤの国内の来店客数はこの4年間で1.6倍、客単価も15パーセント増加と、ありがたいことに、多くのお客さまに選んでいただいています。
そう考えると、「世のため、人のため」を建前でなく、本気でやり抜くことが、結果的にこのAI時代を「生き抜く装備」につながるのではないかと思います。
AIの登場により、世の中はめまぐるしく変化を続けています。
しかし、どんなにAIが進化しても、人間の「こうしたい」という意志や熱意、意欲が世の中をつくっていくことは変わりません。
「豊かな世の中にしたい」。そんな強い意志で、社会を良くしていけるのは人間だけなのです。
文/武田敏則 撮影/竹井俊晴
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